今宵は遣らずの雨

その翌日、小夜里はやってきた一太に、昨日書いた紙を取り出し、

()れはなんであるか」

と尋ねた。

「海っ」

一太は元気に答えた。

裕福な廻船問屋であるが、代々の心構えとして、跡取り息子をうんと幼い頃から船に乗せていた。

この歳にして既に、荒れ狂う海を身をもって知っていた。

どうやらそれを書いたらしい。

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