今宵は遣らずの雨

兵部少輔より、会えない代わりに書状が届いた。


本当は、無理をせず横になっておくようにと、御殿医から云われていた。

なのに、兵部少輔は墨をするよう云いつけ、口述すると云う側用人(そばようにん)を制して、(おの)ずから書をしたためた。


「……そうでなければ、初音は信ぜぬから」

兵部少輔はそう云うたのだそうだ。


初音は逸る気持ちを抑えて、その書状を開いた。

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