今宵は遣らずの雨

初音殿

此度(こたび)はかようなことにて貴殿が気煩(きわずらわ)候間(さうらふあいだ)
誠にかたじけなく(さうらふ)

予が(やまひ)日追ふにつれ快方へ向ひ候二付(さうらふにつき)
貴殿案ずる事露もなく候

しからば貴殿が腹の子第一義に考へ候故(さうらふゆえ)
日中滋養ある物しかと食ひ(さうら)ひて
夜余分な事考へ候はずしかと()ねまほしたく候

貴殿が予の為無事に子産み候義(さうらふぎ)
予がこの上なき喜びとなり候

何卒(なにとぞ)御身自愛し候上者(さうらへば)
予の如き病え()候はず願い()御座候(ござさうらふ)

鍋二郎


〈 初音殿

この度はこのようなことでそなたの気を煩わせてしまい、誠に申し訳ない。

我が病は日に日に快方に向かっているので、そなたが案ずることは全くない。

だから、そなたは腹の子を一番に考えて、日中は栄養のあるものをしっかりと食べ、夜は余計なことを考えずにしっかりと寝てほしい。

そなたが我がために無事に子を産んでくれることが、我がこの上なき喜びとなるのだ。

くれぐれも身体(からだ)に気をつけて、我が病などには決して罹らぬようにしてほしい。

鍋二郎 〉

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