今宵は遣らずの雨

◇最終話◇


兵部少輔(ひょうぶしょうゆう)は、初音の返事を見ることはできなかった。


だが、今際(いまわ)のきわで、側用人(そばようにん)が男泣きしながら初音の方の書を読み上げたから、耳では聞いていたかもしれない。


初音に書をしたためたとき、兵部少輔はもうとてもそんなことができるような病状ではなかった。


最期の気力を振り絞って、書き切ったのである。

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