今宵は遣らずの雨

そのとき、

腹の子が、思い切り、初音を蹴った。

今まで、もごもご動く胎動はあったものの、こんなに強いのは初めてだった。

「……つっ」

初音は顔を歪めた。


「如何《いか》がなされた、だれか呼ぼうか」

瑞仙院の顔が一瞬にして、強張(こわば)った。


「……心配御無用にてござりまする。
この子が、元気がゆえのことにてござりまする」

初音が、この頃どんどん膨らんでいく腹を撫でながら、ふわっと微笑んだ。


「……この子に、叱られて、気づくとは」

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