今宵は遣らずの雨

此処(ここ)は手習所ゆえ、字を書かぬものには無縁のところじゃ。そなた、わたくしの書いた字を真似(まね)て書くことができるか」

小夜里は一太に尋ねた。

一太は大きく肯いた。

「きちんと返事をしなされ」

小夜里は(たしな)めた。

「はいっ」

一太は大きな声で答えた。

これで、和尚のところへ通う日以外は小夜里の手習所へ来ることになった。

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