今宵は遣らずの雨
「……此れは、その廻船問屋からでござるな」
民部は皿の上の最後の蒲鉾を、箸でつまみ上げて口の中へ入れ、
「美味うござる」
と云って、満足げに微笑んだ。
小夜里は、確かほかに豆腐竹輪があったはず、と探しに行くために、立ち上がった。
知らぬ間に、慣れない酒が身体中に行き渡っていたようだ。
足元が覚束なくなっていた小夜里は、眩暈を起こしたようにふらついた。
そして、そのまま膝を折って、畳の上へ崩れ落ちる。
咄嗟に、民部が小夜里を抱きとめた。