今宵は遣らずの雨
◇第五話◇
身体をしっかりと抱きとめられた小夜里は、民部の顔を見上げた。
小夜里の頬は火照ったように紅く色づき、棗の形の潤んだ瞳は、行燈の明かりの中でゆらゆらと揺れた。
二人の目が見合う。
「民部さま……?」
小夜里がかわいらしい、ぷっくりとしたくちびるで呟いた。
民部の切れ長の鋭い目がすーっと細くなる。
そして、ゆっくりと顔を近づけ、小夜里のくちびるを塞いだ。
はっとした小夜里はもがいて突き放そうとしたが、酒の廻った身体は全く云うことを聞かなかった。
当然、覆いかぶさった相手はびくとも動かない。
そのまま、静かに畳の上に沈められる。
小夜里は観念した。
抗おうとしていた微かに力も、たちまち身体から消えていった。