今宵は遣らずの雨

離縁した夫は、代々藩の重責を担う家老の家の跡取りで、真面目な男だった。

女を買って遊んだことなどなかったであろう。

幼い頃から智に長け、しかも佳人の誉れ高き小夜里の縁談は、引く手あまただった。

その家から是非にも、と懇願されて、小夜里は妻に迎え入れられた。

何不自由なく暮らせる家柄のこともあるが、小夜里を大事にしてくれそうに見えたから、父はこの縁組を承諾したのだ。

だが、その夫は、我が妻には自らの淫らな欲を満たすためなら何をしてもよい、と思い込むような男だった。

(ねや)では自らの(たか)ぶりに赴くまま、まだ乾いたままの小夜里の其処(そこ)へ無理矢理押し込んだ。

そして、(たま)らずに痛がって唸る小夜里を、

「おなごのくせに学問ばかりするから、おまえのような不具者になるのだ」

と、容赦なく冷たく言い放った。


子など……できるはずもなかった。

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