今宵は遣らずの雨
ところが、手習所を開いた矢先に、父が卒中であっけなく逝ってしまった。
まるで、実家に戻ってきて居づらい娘に、安住の場を与えられたのを見届けたかのごとく。
小夜里は父から手習所を引き継ぐことを決意し、しかもここで通いの下働きのおきみを雇って一人住まいすることにした。
兄が迎えた嫂も、これで少しは過ごしやすくなるであろう。
母や兄など周囲が再嫁を望んでいたことは承知していたが、婚家を追われた身である小夜里にとって、その道はなかった。
場所柄、町家の腕白な子どもたちばかりが通う手習所は、活気に満ち溢れていた。
子に恵まれなかった小夜里が、他人様のとはいえ、こんなにたくさんの子どもに囲まれるようになるとは、不思議な心持ちがした。
しかしその半面、これぞ「因縁」という気もした。