今宵は遣らずの雨

すると、忠之進は突如、床の間へ向かい、妻の千都世(ちとせ)が制するのを突き飛ばして、父から受け継いだ太刀(たち)を引っ掴んだ。

「父親のおらぬような子を産もうとは、父上はもちろん御先祖様にも申し開きが立たぬ……おまえのような妹など、生かしてはおけぬ」

わなわなと唇を震わせながら、太刀の(つば)をかちりと鳴らして、(さや)をすーっと抜くと、

其処(そこ)に直れっ……わしの手で成敗してくれようぞっ」

大音声(だいおんじょう)とともに正眼に構えると、妹である小夜里に斬りかかった。

小夜里は身を屈め、目を(つぶ)った。

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