今宵は遣らずの雨
ある日の夕方、小夜里はとうとう、通いで働きに来ているおきみに話した。
腹の膨らみは着物を通してはまだ目立たなかったが、町医の玄胤からも、その後掛かった産婆のおりきからも、どうも流れやすい性質であるように云われたため、おきみには今まで以上に用事を申しつけねばならない。
小夜里の話を聞いたおきみは、大きく目を見開いた。
「これからは生家を頼れぬようになったゆえ、おまえにはなにかと面倒をかけると思うが、どうか力になっておくれ」
小夜里が伏し目がちにそう告げると、おきみは俯きながらもこくっと肯いた。