今宵は遣らずの雨
その翌日、奥の長屋に住む、おきみの母親のおとくがいそいそと手習所にやってきた。
こんなことは初めてだったので、小夜里は咄嗟に身構えた。
おきみは夕餉のための使いに出していた。
……もしかしたら、昨日の話を聞いて、おきみに暇をもらいたいと云いに来たのかもしれぬ。
父無し子を産もうという女に、嫁入り前の娘を預けたくない心持ちは判るが、今おきみに暇を取られては困り果ててしまう。
ところが、そんな小夜里には目もくれず、土間の上がり框にどかっと腰を下ろしたおとくは、抱えてきた包みを解きはじめた。
小夜里は傍に寄って、その中を覗き込んだ。