今宵は遣らずの雨

その翌日、奥の長屋に住む、おきみの母親のおとく(・・・)がいそいそと手習所にやってきた。

こんなことは初めてだったので、小夜里は咄嗟(とっさ)に身構えた。

おきみは夕餉(ゆうげ)のための使いに出していた。

……もしかしたら、昨日の話を聞いて、おきみに暇をもらいたいと云いに来たのかもしれぬ。

(てて)無し子を産もうという女に、嫁入り前の娘を預けたくない心持ちは(わか)るが、今おきみ(・・・)に暇を取られては困り果ててしまう。

ところが、そんな小夜里には目もくれず、土間の上がり(かまち)にどかっと腰を下ろしたおとく(・・・)は、抱えてきた包みを解きはじめた。

小夜里は(そば)に寄って、その中を覗き込んだ。

< 60 / 297 >

この作品をシェア

pagetop