今宵は遣らずの雨

「……見てぇつかぁさいなぁ、うちの長屋連中に声かけたら、こがぁに集まったんよう」

解かれた包みの上には、初衣だの、襁褓(むつき)だの、前掛けだの……生まれてくる赤子のために入り用なものが広げられていた。

「どれもみな、使い古したもんばかりじゃけんど、赤子のもんはいくらあっても追いつかんけぇ」

おとくは女を見上げて、

「ほいじゃが、初衣はちゃあんと麻の葉の模様じゃけん、昔から云われよるように、子は丈夫でまーっすぐ育つじゃろ。おなごじゃったら、悪い虫もつかんようになるけぇのう」

と云って、豪快に笑った。

人の女房だから、丸(まげ)で眉を落としてはいたが、おきみによく似た笑顔だった。

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