今宵は遣らずの雨
「どうやら逆子のようじゃのう……赤子の手がつっかえんかったらえぇんじゃが」
小夜里の下腹に手をあてた産婆のおりきが、顔を顰めた。
この界隈の子どもらはみな、この「とりあげ婆さん」の手に掛かってこの世に引き出されていた。
身体中を襲う痛みはさらに増し、その痛みが和らぐ間隔もだんだん短くなってきた。
なんとか痛みを逃がそうと、身体の向きを変えたいところだが、突き出た大きな腹ではそれもままならぬ。
小夜里の額に脂汗が、どっと浮き出てきた。
「……あと……どのくらいか……っ」
小夜里が痛みに歯を喰いしばりながら、荒い息で訊くと、
「まだまだじゃ」
おりきは素っ気なく答えた。
それを聞いて気が遠くなりそうになった小夜里に、おきみの手によって天井から吊るされた、白い紐が舞い降りてきた。
小夜里は思わず縋るように、その紐を引っ掴んだ。