今宵は遣らずの雨
◇最終話◇
お天道様が真上から西へ傾き、宵闇が迫り、夜が更け、夜半になり、そして空が白みだし、また朝がやってきても、腹の子が出てくる気配はなかった。
小夜里は積み上げた布団を背に座して、天井から吊り下げられた白い二本の紐を左右の手に持ち、ひたすら痛さに耐えていた。
「お師匠さん、息を吸うてばかりじゃいけん。吐くんじゃ」
その背をさすり続けていたおとくは、自分も一緒になって、はあぁーっと息を吐いていた。
「子ぉも早う出たい思うとるんじゃけぇ、子の調子に合わせていきむんじゃ……ほれっ」
産婆のおりきも、いきむ潮時を合図していた。