今宵は遣らずの雨

長屋に住むおきみが裏口から帰って行ったあと、雨脚がさらに強くなってきた。

御大尽が住む長屋門ならいざ知らず、軒下ほどの覆いしかない門では無きに等しい。

意を決した小夜里は玄関を出て、番傘を開いて門へ向かった。

「あの……もし……」

小夜里は門の下の男に声をかけた。

「ここにおられては、御身が濡れてしまうゆえ、どうぞ中へお入りくだされませ」

小夜里は番傘を男の方へ向けた。

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