今宵は遣らずの雨

「御免くださいまし……」

声がして、(ふすま)が開き、女が入ってきた。

「……嫂上(あねうえ)

小夜里が勘当された兄の妻である千都世だった。

(あによめ)と云えども小夜里よりも歳下で、兄に嫁いで二年ほどになるが、子にはまだ恵まれていなかった。

「うちに参った町家の者から、今朝になってもまだ子が生まれぬと聞き及んだゆえ、わたくしでお役に立てるかどうかわかりませぬが」

千都世は微笑みながら、(たもと)から(たすき)を取り出して身に巻きつけた。

「されども……兄上が……それに母上も……」

小夜里が目を伏せて、荒い息で呟いた。

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