今宵は遣らずの雨

「旦那様は何を聞いても素知らぬ振りで……さすれども、姑上(ははうえ)がたいそうご心配なされ取り乱されたゆえ、わたくしが参りましょうと申し上げると……」

そう云って、千都世も目を伏せた。

「自分の代わりに娘の力になってほしい、と初めて嫁のわたくしに頭をお下げに……」

あの気位の高い母が、と思うと、小夜里の目に込み上げるものが迫ってきた。

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