今宵は遣らずの雨

小夜里は、改めてしっかりと、白い紐を握りなおした。

そして、腹の中の子の動きにだけ、気を集めた。

しばらくすると、子が(おの)ずから外へ押し出ようとする気配が感じられるようになってきた。

その息に合わせて、小夜里もまたいきむようにした。

相変わらず、腹の中を乱暴に掻き回されたような痛みは続く。


やがて、そんな今までの痛みとは比べようがない痛みがやってきた。

五臓六腑を素手で引きちぎられるような強烈な痛みが身体(からだ)中を駆け巡った。

小夜里は(たま)らず、獣のような声で絶叫した。

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