今宵は遣らずの雨
「足が出たっ」
おとくが叫んだ。
おりきが細心の気遣いをしながらも、鮮血に染まった赤子の足を強引に引き出していく。
これ以上時間がかかると、母子ともにもたない、と判断したからだ。
つつがなく胴まで外に出てきたが、やはり腕がつっかえた。
「もうひと踏ん張りじゃっ。堪えぇよっ」
おりきはそう云って、赤子をすっかり引き出した。
ようやっとのことで表に出てきた赤子は、おりきが処置を施した直後、耳をつんざくような声をあげて泣き始めた。
すぐさま臍の緒を断たれ、傍らの盥で産湯をつかわされる。
立ち込める血のにおいを物ともせず、長屋の女房たちはきびきびと動いてくれた。