今宵は遣らずの雨
小夜里は息子の頬に指を触れ、それから打ち合わせた胸元を崩し、左の乳房を表に出した。
突き出た乳首の先には既に白い汁がにじみ出ていた。
千都世に支えられながら、赤ん坊は母の乳首をぱくっと口に含んだ。
もどかしそうに幾度か、もごもごと口を動かしたあと、やがて、ちうちうと吸い出した。
生まれたての子は「赤子」という名のとおり、身体中が燃えるように真っ赤だった。
それに、しわだらけのくしゃくしゃの顔だった。
たった一度だけ、交わした契りの相手は、いつしか顔も姿もおぼろになっていた。