今宵は遣らずの雨
……にもかかわらず。
小太郎は孔子先生にまったく興味を持つ気配がなかった。
それどころか、文机に向かうことさえ、むずがった。
隙あらば、木刀を持って外へ飛び出して行く。
幼き頃から、兄の横で和書にも漢書にも親しんできた小夜里にとっては、青天の霹靂で、信じられないし、考えられないことだった。
学問好きの我が身から、まさか、こんな真反対の嗜好を持つ子どもが生まれようとは。
実際、小太郎は小夜里にまったく似ていなかった。それどころか、小夜里の兄にも母親にも、身の回りにいるだれにも、似ても似つかなかった。
小柄な小夜里の子にしては、小太郎は既に、界隈の同じ頃に生まれた子どもたちより、頭一つ大きかった。
……やはり、父親に似たのであろうか。
小夜里の胸の中に、どんよりとした雲がかかる。