今宵は遣らずの雨
「……母上っ、ただ今戻り申したっ」
息を弾ませて、竈のある土間へ小太郎が入ってきた。手には木刀を持ち、剣術の道場で思い存分打ち合ってきたのか、汗をかいて頬を紅潮させている。
「小太郎っ、そなたはまた、わたくしとの約束を破って、外へ参られたな」
小夜里が目を吊り上げて、小太郎に迫った。
手習所に通う子どもたちには、根気よく教え|諭
《さと》す小夜里も、我が子には違った。
つい、初めから、気を詰めてしまう。
「まぁまぁ、お師匠、気をお鎮めなされ」
すらりとした背丈の男が、戸口に立っていた。