今宵は遣らずの雨
「此度、短い日数ではあるが、その剣術指南役の計らいで、我が藩士の子弟らのための剣術道場が開かれることになってな」
それに参加する藩士の子弟を見極めていて、小太郎がその中の一人に選ばれたのだ。
小太郎はたいそう喜んでいるらしい。
それで、先刻帰ってきたときに、頬を紅潮させていたのだ。
「……小太郎は、藩士の子ではござりませぬ」
小夜里の呟きに、玄丞は苦笑する。
「佐伯殿の甥であるし……それに、そなたの子ではないか」
そして、だれも知らぬが民部の子でもある。
小太郎は正真正銘の「芸州広島藩士の子」であった。