今宵は遣らずの雨

「小夜里どの、案ずるには及ばぬ。日数は短いと云うたであろう。堅苦しいものではない」

玄丞は穏やかに微笑んだ。

「ただ、此度のことは、小太郎にとっては学問よりも、剣術の方へ心が傾くことになろうぞ。
それゆえ、そなたの意向を訊いたのだ」

小夜里も微笑んだ。しかし、平生(へいぜい)とはまるで他人のような気弱なものだった。

「……わたくしは、学問で身を立てることしか知らぬおなごでござりまする。
たとえ、我が身が知らぬ場であれども、小太郎が望むことで身を立てられるのであれば、喜んで送り出さねばなるまい、と胸では判っておりまするが……」

小夜里は異国のびいどろ(・・・・)のように(はかな)げに見えた。


「……寂しゅうござりまする」

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