今宵は遣らずの雨
◇第四話◇
翌日、嫂の千都世がやってきた。
月々の掛かりを持参したのだ。
手習所の束脩でなんとか暮らしは立てられるので、小夜里は何度も固辞しているのだが、嫂は将来小太郎のためになにかと入り用になるかもしれぬから、取っておくようにと毎月きちきちっと持ってきてくれた。
「外に出られる口実になって、わたくしもうれしゅうござりまする」
武家の妻女というのは、ちょいと買い物でも、というふうに外に出られるわけにはいかないので、千都世にとっては良い気晴らしになっているようだ。
相変わらず、兄の忠之進との間に子は恵まれていなかった。
だが、母の芳野の力で、離縁はされずに済んでいる。
小夜里が小太郎を命がけで産んだとき、生家の者の中ではただ一人、千都世だけが付き添ってくれた。
その千都世への恩義を、根っからの「武家の女」の芳野が忘れるわけがなかった。