今宵は遣らずの雨
小夜里は千都世に、小太郎が藩士の子弟のための剣術道場に参加する一人に選ばれたことを告げた。
すると、千都世は「それは誉れ高きこと」と手を叩いて、たいそう喜んだ。
小太郎が伏せった折、手習所のある昼間には千都世の手も借りていた。
小夜里は小太郎と二人きりで暮らしてきたが、決して一人きりで育ててきたわけではなかった。
困ったときには必ず、身の回りのだれかが手を差し伸べてくれた。
だから、小夜里は決して「一人」ではなかった。