今宵は遣らずの雨

◇第五話◇


いよいよ、本日から晦日(みそか)まで、およそ半月ばかり、小太郎が藩道場へ参る。

同じくらいの齢の藩士の子弟が集まって、剣術(やっとう)の稽古に励むだけでなく、寝起きもともにするのである。

小夜里は、これまで町家(まちや)の子とばかり遊んできた小太郎が、藩士の子弟らとうまくやっていけるのか、気が気でなかった。

……言葉遣いだけは、町家に染まらぬように気をつけてきたつもりだが。それでも、知らぬ間に町家の振る舞いが出るやもしれぬ。

「お師匠、そう案ずるな。小太郎は平生(へいぜい)、城下の剣術道場に出入りしておるゆえ、藩士の子らとも親しんでおる」

小夜里は小太郎が論語の素読から逃げ出しては顔を出しているお城の近くの剣術道場について、あまり良くは思っていなかったため、どんなところなのかほとんど知らなかった。

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