婚約破棄するつもりでしたが、御曹司と甘い新婚生活が始まりました
拓海さんは私に詰め寄る。

「それは……」

言い返すことなんて出来なかった。

父が会社のお金を着服したなんて玲人君に言えないし、知られたくない。

ギュッと唇を噛み締める。

「言えないよな?」

拓海さんが邪悪な笑みを浮かべる。

今の彼が悪魔に見えた。

人の弱みにつけ込む、ずる賢くて残忍な悪魔。

「俺なら伯父さんを救ってやれる。もちろん、九条には言わない。お前の面子もあるもんな」

拓海さんは、ハハッと声を上げて笑う。

彼の耳障りなその笑い声を聞いて、吐き気がした。

「返事は一日待ってやる。もしお前が俺の話を断るなら、内部告発するつもりだ。よ〜く考えろよ。あと、これは俺の連絡先だ」

拓海さんはスーツのポケットから名刺を取り出すと、私の手に握らせる。

「いい返事待ってるぞ」

私の耳元で囁くと、彼は後ろ手を振ってこの場を去った。
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