婚約破棄するつもりでしたが、御曹司と甘い新婚生活が始まりました
「な、何もされてないよ。トイレから人が出てきたし、何も出来なかったんじゃないかなあ」

自分は嘘つきだって心の中で思いながら、必死に取り繕う。

「顔色悪い。ホテルの部屋で少し休んでいけば?」

じっと私を見つめながら告げる彼の目から逃げられず、私は狼狽えた。

「そんなの大袈裟だよ。初めての受付で緊張してただけ。なんともないよ」

無理矢理笑うも、その声は自分には虚しく聞こえた。

でも、笑わなければきっと声が震えてた。

今、彼に父の不正のことを知られるわけにはいかないのだ。

お願い!

これ以上突っ込まないで!

そんな私のささいな願いが通じたのか、玲人君は「じゃあ、戻ろう」と言って私の腕を掴んだ。

彼に頼りたかった。

彼に甘えたかった。

胸が苦しくてたまらない。

玲人君、ごめんね。

胸の中で彼に謝る。

私……あなたを裏切るよ。
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