婚約破棄するつもりでしたが、御曹司と甘い新婚生活が始まりました
力なく笑うと、PCの電源を落として、机を片付けた。

玲人君は今日は会食はないけど、八時まで会議や打ち合わせの予定がびっしり入っている。

彼が帰宅するのは九時近くだな、きっと。

「お先に失礼します」

バッグを肩にかけると、みんなに挨拶して秘書室を後にした。

ひとりトボトボ歩いて会社を出る。

いつもなら秘書室を出てすぐにタクシーを呼ぶのだが、今日は歩いて帰りたかった。

頭の中はぐちゃぐちゃ。

拓海さんの言葉が何度も頭の中でリピートされる。

『お前、俺の愛人になれ』

愛人ってことは、拓海さんと肉体関係を持つということ。

玲人君以外の人と肌を重ねるなんて出来る?

やっぱり……出来ないよ。

拓海さんの提案を受けようと決めたはずなのに、その決意が揺らぐ。

父が今どうしているのか知りたくて、母のスマホに電話をかけるも、応答がない。
< 213 / 256 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop