婚約破棄するつもりでしたが、御曹司と甘い新婚生活が始まりました
とりあえずスーツケースだけ持ち出して、他の荷物のことは後で考えよう。

ハンガーから服を取り出して畳んでいたら、あることに気づいた。

前に玲人君、鯖の味噌煮食べたいって言ってたなあ。

結局、朝は時間がなかったり、夜は彼が接待があったりして一度も作ってあげていない。

彼は私にたくさんのことをしてくれたのに、私は彼のそんなささいな願いも叶えてあげていないのだ。

玲人君……ごめんね。

今からスーパーに食材を買いに行こうかと思ったけどやめた。

私の痕跡を残しちゃいけない。

彼にとってもうそれは必要のないものだから。

荷物をある程度まとめ、服を着替えると、スーツケースを手に持ち玄関に向かう。

靴を履くと、くるりと向きを変え、深々と頭を下げた。

「お世話になりました」

もうここに私が帰ることはない。
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