婚約破棄するつもりでしたが、御曹司と甘い新婚生活が始まりました
後ろ髪を引かれる思いで家を出ると、タクシーを捕まえてホテルに向かった。

覚悟を決めたはずなのに、落ち着かない。

このままタクシーでどこか遠くに逃げたい。

何度もそう思った。

でも……運命からは逃れられないのだ。

ホテルに到着すると、タクシーを降りてスーツケースを転がしながら中に入る。

クロークに行ってスーツケースを預けると、イタリアンの店にゆっくりと向かった。

身体は緊張で強張っている。

心臓が今にも壊れそうなくらいバクバクいっていて、気が変になりそうだ。

店の店員に「栗田の名前で予約しているのですが」と伝えると、奥にある個室に案内された。

もう目に映るもの全てが灰色に見える。

私の顔を見て拓海さんがフッと笑った。

「時間通りだな。逃げ出すかと思った」

「……逃げませんよ」
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