蜘蛛(くも)
いつも高い所から、憎まれ口をたたいている蜘蛛の豹変ぶりに、蟻達は驚き、全員の動きが止まった。
「一体どうしちまったんだい?蜘蛛の親父よ、それにつ・き・み・ゆ・きって何の事だい?そんな名前聞いた事ないぜ」
蟻達は口々にそう言った。
「嘘つけ、今朝そこら辺に柔らかくて、タンポポの種みてえな、いい匂いのする生き物が落ちてたろ?」蜘蛛は語気を荒げ、涙声で訴えた。
「おいおい親父よ、本当にどうしちまったんだよ、俺達は昨日からあたりをつけていた、この蝉を運ぶのが今朝一番の仕事だったんだぜ、妙な言いがかりは止めてくれ、親父の獲物を横撮りしたりしねえよ」
蟻達は、獰猛だったが、決して嘘をついたりしない事を、蜘蛛は知っていた。
知ってはいたが、絡まずには居られなかった。
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