蜘蛛(くも)
蜘蛛は、もはや枇杷の葉影で待つ必要がなくなったので、巣の真ん中で、秋風に吹かれながら、ひたすら月深雪を待ち続けた。

ある日、蜘蛛は巣の真ん中で、小さく丸まって息絶えていた。

僕は毎年、この北海道の別荘で、秋が終わるまで過ごす事にしている。
十五夜の満月を見ながら、その日も独りで、ウイスキーをやっていた。
ベランダに吹く風は、いつにも増して冷たく澄んでいる様に感じた。
三杯目のウイスキーに、口をつけた時、僕は不思議な光景に遭遇した。
酔っていたせいかも知れない。しかし、その光景は、僕の瞼から離れなかった。
雪の様に真っ白な不思議な生き物が、ふわふわと空中を舞っている。その小さな生き物を、僕は初め昆虫の一種だと思い、近づいてみた。すると、その不思議な生き物は、一瞬強く光を放ち、僕が近づくのを拒んだ。
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