蜘蛛(くも)
蜘蛛は、何の事かさっぱりわからなかった。
「私の名前です、どうやら私は、あなたの食べ物として生まれて来たのでは無かったようですね」
優しい歌う様な声で月深雪は言った。
美しい響きの名だと蜘蛛は思った。
蜘蛛は、空腹を忘れ、月深雪は孤独を忘れた。
蜘蛛は、しばらくは、夢見心地でいたが、月深雪の大きな瞳に、自分の姿を見つけ、急に現実に戻された。
蜘蛛は、自分の姿が、相手を脅すのには適していたが、月深雪と一緒にいる事さえ、許されない様に思えてならなかった。
月明かりに、照らされた自分の姿を隠すように、蜘蛛は慌てて、枇杷のベッドの裏側に回った。
「もう、守って頂けないのですか?あなたがそばに居てくれなければ、私は安心して眠る事さえできません」
月深雪は、蜘蛛の心を知っているかのように言った。蜘蛛は嬉しかった。
そして、その言葉だけで充分だった。
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