蜘蛛(くも)
「俺は、お前さんの裏側で見張っててやるから安心して眠りな」
月深雪は、枇杷の葉ごしに映る蜘蛛の影に抱かれ、眠りについた。
蜘蛛は、自分の中に、こんな心が存在している事に驚いていた。
月が傾きかける頃、蜘蛛は月深雪を守る為、必死に起きていたが、空腹と疲れと幸福感に包まれ、いつの間にか眠ってしまった。
 朝つゆが、枇杷の葉を濡らし、蜘蛛の張り付いている葉に、水滴が落ちて揺れた。
蜘蛛は目覚め、慌てて枇杷の葉の表側に回った。
しかし、そこには、あの美しい月深雪の姿は見当たらなかった。
蜘蛛は、必死に探した。地面の上を蟻達がせっせと蝉の屍を運んでいた。
いつもと変わらぬ朝であった。
「おい、蟻んこよ!月深雪を見かけなかったか?もしお前達が運んで行ったなら、後生だから返してくれ、なんなら毎日お前達と一緒に働いたっていい、俺の体をバラバラにして運んでくれたっていいんだ」
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