君がいた季節
「あっ、アヤちゃん!」
ドアノブに手をかけた彼女を呼び止めると、顔だけこちらに向けた彼女の髪がふわりと揺れた。
ヘアクリップで留めていたせいか、ゆるくクセのついてしまった毛先が、彼女の柔らかな表情を際立たせる。
俺は、トクトクと動きを速めた心臓にゆっくりと酸素を送り込むと、
「俺、直接店に行くつもりだから。みんなにそう言っといてくれる?
それと、資料ありがとう。悪かったね。助かったよ」
そう言った。
「こちらこそ。チョコありがとうございました」
彼女はにっこり微笑んだあと、ドアの横に掛けてあるホワイトボードの俺の欄に『直帰』と書き込み部屋をあとにした。
彼女に対して特別な感情を抱いているやつが、俺以外にもいるだろうな。
彼女の優しさに触れるたび、そんなことを考えてしまう。