君がいた季節


「俺は、ビール」

ネクタイを軽く緩めながら言った俺に、彼女が、

「他にも何か頼みますか?」

もう一冊あったメニューを広げ、問う。

彼女の隣で黙々と口を動かしていた浅田が、

「私、これと同じのが食べたい!」

皿にひとつだけ残されたコロッケを指さす。


「浅田……。お前、どんだけ食うんだよ」

三井が呆れた表情でそう言うと、浅田は、

「だって、お腹が空いてるんだもん。しょうがないじゃないですか」

右の頬を膨らませ、口の端を指で拭った。


「えっと…、それって、何でしたっけ?」

メニューと皿を交互に見る彼女。

「カニクリームコロッケだよー。半分こする?」

浅田は自分の皿にそれをのせると、箸で半分に割った。

< 12 / 109 >

この作品をシェア

pagetop