君がいた季節
「あ……。ちょっとだけ、いいですか?」
震えた携帯を手に席を立つ彼女。
「もしもし?……ん?………えっと、………ううん。ちょっと待って」
賑やかな店内では相手の声が聞き取れないらしく、視線を店の出入口の方へと移した彼女。
「いってらっしゃーい」
と、浅田が彼女に向かって手を振った。
彼女はそれにニッコリ笑って応えると、携帯を耳にあてたまま歩き出した。
……危なっかしいなぁ。
黒いスカートの裾を揺らして歩く彼女は、一体何センチあるというのだろうか、かかとの高いパンプスを履いていた。
そんなに急いで大丈夫なのか?
そんな俺の心配をよそに、彼女は器用に歩いて店を出ていく。
馬鹿だな。わかりきったことじゃないか。
べつに俺が心配しなくても、彼女はちゃんと。
「晋也?」
「……ん?あぁ、なに?」
右隣りに座る千春が頬杖をつき、俺のグラスを指さした。
「なにか頼む?」