君がいた季節
「……え?」
彼女の名前を耳にして、ドクンと跳びはねた心臓が痛いくらいに激しく動く。
「えっ。今、…ですか」
さっきまで三井の話に盛り上がっていたはずの野村が驚いた表情で千春の顔を見た。
「今、訊いちゃうんですか」
そう言った浅田も、ヘラヘラと笑っていたはずの三井も、目を丸くして千春を見た。
「だって、しょうがないじゃない。
知らないふりしてるのも、もう限界」
千春は煙草を灰皿に押しつけると、躊躇うことなく、
「アヤちゃんが好きなんでしょ?」
そう訊いてきたのだ。
「なっ、………」
とぼけようにも、次の言葉が出てこない。
とりあえず落ち着こう。
俺は煙草の煙を肺の奥底まで送り込む。
「とぼけてもムダですよー。みんな、時田さんの気持ちに気づいてますから」
千春に感化されたのか、浅田が真剣な表情でそう言った。
「みんな、…って?」
煙草を持つ手が微かに震えている。
血の気が引いていく感覚の中で、自分に言い聞かせていた。
もうバレてるんだ。
今さら焦ったって、仕方ない。