君がいた季節


「アヤちゃん。悪いけど、夕方までに10部作ってくれないかな」

そう言って営業用の資料を差し出す。

机一面を覆う伝票から視線を俺に移した彼女が、

「夕方って…。アバウトすぎですよ。
何時までに作ればいいですか?」

少し困った顔をして資料を受け取ると、壁に掛けられた四角い時計をチラリと見た。


「4時には欲しいな」

彼女の顔色をうかがいつつ、ご機嫌をとるかのようにニッコリ笑ってみせる。


「4時、……ですか?」

彼女は資料をめくっていた手を止めると、俺の笑顔には目もくれず、再び壁の時計に視線を移す。


15時20分


彼女の大きな瞳がさらに大きくなる。

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