君がいた季節


美佐子に彼氏ができたと知って、大切にしていたおもちゃを横取りされたような。

最後に食べようと残しておいたショートケーキのイチゴを食べられたような。

それに似た、最悪な気分になったけど。


だとすると、

『美佐子が好きだ』

って想いは本物なのだろうか、と疑問に思う。


俺が美佐子を想う気持ちは、男女の恋とか愛なんかじゃなくて。

父親の、娘への愛情みたいなもので。


『大事に大事に育ててきた娘に、うさんくさい彼氏ができた』


そんなときに抱く感情と同じなんじゃないか、と思ってしまったんだ。


まぁ、どちらの想いが本物なのかはわからないけど。

美佐子に彼氏ができたってのは事実で。

俺はそれをきちんと受けとめなくちゃいけないんだ。


そんなことを考えながら、俺はひとり自転車を走らせていた。



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