君がいた季節
出会いは二年前の春。
「古沢彩花です。いろいろとご迷惑をおかけすると思いますが、一生懸命がんばります。どうぞよろしくお願いします」
入社式で社員全員の前に立たされ、頬をピンク色に染めた彼女が、用意してきた言葉を言い終えてから一礼したあと、一瞬だけ笑顔を見せた。
ドクン。
緊張から解き放たれたために生まれたその無防備な笑顔に、心臓は素直に反応する。
その笑顔が自分に向けられたものでないことは、百も承知。
それなのに、俺の心臓はせわしなく動き、もう一度その笑顔が見たいと騒ぐ。
「なかなか、ですよね」
同じ営業部の三井が、彼女に視線を置いたまま耳打ちしてきた。
「……まぁね」
俺は何と答えていいのかわからずに、素っ気ない返事をした。