君がいた季節
あの日から、美佐子とはひとことも喋っていない。
あらたまって『ごめん』と言うほどのことでもないし、美佐子も何も言ってはこないから。
「プリントは行き渡りましたか?」
40過ぎても独身の戸田ちゃん。
塗り固めた化粧が剥がれてしまわないように、滲み出る汗をハンカチで何度も押さえている。
せっかくの夏休みだっていうのに、わざわざ学校へ来て講習を受ける。
『あたしが受けるんだから、あんたも受けるの』
申し込んだのは、美佐子が矢野と付き合う前。
本当なら、自転車の後ろに美佐子を乗せて来るはずだったんだ。