君がいた季節


抱きしめてやりたかった。

できることなら、

「俺が幸せにしてやる」

そう言いたかった。


でも、美佐子はそれを望んではいない。

俺も、弱みにつけこむなんて真似はしたくなかった。




「あーっ!もうっ!サイテーっ!」

生ぬるい風を全身で受けながら、俺がこぐ自転車の後ろでそう叫んだあと、いつもの口調で矢野に対して文句を言うんだ。


「あいつ、バカだよね。好きなら好きって、さっさと言えばいいのに。情けない。それでも男!?根性なしっ!ほんっと、最低なヤツ」


美佐子の言葉に何も言えない俺。

なんだか自分のことを言われてるみたいで。


でも、

『好きなら好きって、さっさと言えばいいのに』

そう簡単にはいかないもんだよ。


あ。

矢野のことを『最低なヤツ』って言ったところに関しては、大きく頷いちゃったけどさ。

< 51 / 109 >

この作品をシェア

pagetop