君がいた季節
抱きしめてやりたかった。
できることなら、
「俺が幸せにしてやる」
そう言いたかった。
でも、美佐子はそれを望んではいない。
俺も、弱みにつけこむなんて真似はしたくなかった。
「あーっ!もうっ!サイテーっ!」
生ぬるい風を全身で受けながら、俺がこぐ自転車の後ろでそう叫んだあと、いつもの口調で矢野に対して文句を言うんだ。
「あいつ、バカだよね。好きなら好きって、さっさと言えばいいのに。情けない。それでも男!?根性なしっ!ほんっと、最低なヤツ」
美佐子の言葉に何も言えない俺。
なんだか自分のことを言われてるみたいで。
でも、
『好きなら好きって、さっさと言えばいいのに』
そう簡単にはいかないもんだよ。
あ。
矢野のことを『最低なヤツ』って言ったところに関しては、大きく頷いちゃったけどさ。