君がいた季節


もう何年も前のこと。

美佐子が覚えていただなんて思ってなかったから、なんだか胸の奥がくすぐったい。


「どこ、食いに行く?」

道のでこぼこを避けながら自転車を走らせる。


「どこって…。あんたが作るの!忘れたの?『いつでも作ってあげるね』って言ったくせに」


「そんなこと言ったっけ?」

そこまで覚えていない俺は首をかしげた。


「言った!絶対言った!約束、守ってよね」

むきになる美佐子。

きっと、眉間にシワを寄せて唇を尖らせているだろう。

見なくても想像はつく。

< 56 / 109 >

この作品をシェア

pagetop