君がいた季節
気づかれないように。
「…ヒック…ヒック…。ズズッ。…ヒック…」
気づかれないように。
「ヒック…。ヒッ…」
……あ。
一瞬、そいつの泣き声が止んだのがわかって、その拍子に俺の足までもが動きを止めてしまった。
こともあろうか、真っ赤な目をしたそいつの視線と俺の視線が、見事にぶつかってしまったのだ。
「……」
「…ヒック…。ズッ…」
「……」
「…ヒック…ヒック…。ズズッ…」
先に視線をそらしたのは俺のほう。
このまま一歩前に出ちゃえば、この状況から脱出できるんだ。
頭ではわかってるのに、足が地面にぴったりとくっついてしまったかのように、動けなかった。