君がいた季節
「ほら、名前!教えてよ」
「………ロ…ウ」
「へっ?」
ボソボソと名乗った俺。
どうやらこいつの耳にはきちんと届かなかったらしい。
俺はベンチから立ち上がると、スニーカーの底で地面をならした。
そしてその場にしゃがみこむと、砂の上に、
『虎太郎』
と指で書いてみせた。
「ん?…こ、た、ろう?……虎太郎!わぁ、素敵な名前だね」
俺の横にぴったりとくっついてしゃがみこんだそいつが、俺の顔を覗き込んでニッコリ笑う。
「………」
犬につけるみたいな名前で、好きじゃなかった。
それをこいつは素敵と言った。
「あたしは、ねぇ、」
うつむいた拍子にサラサラと肩を撫でていった長い髪を耳にかけながら、
『梓』
俺の隣に、同じように指で書いた。
少しだけ右に傾いた字を指さし、
「あずさ、っていうの」
そう言って、またニッコリ笑った。